・見知らぬ母からの電話(その4) ― 2005/10/02 12:00
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・見知らぬ母からの電話(その1)
・見知らぬ母からの電話(その2)
・見知らぬ母からの電話(その3)
都こんぶさんのことが妙に気になった酢こんぶは、本当に社内に都こんぶさんがいないのかどうかを調べてみることにした。
手始めに電話番号簿で調べてみる。
結果、酢こんぶと同じ苗字の人は一人だけで、これは酢こんぶも知っている工場勤務の女性だから都こんぶさんではない。
これで既に手詰まり状態に思えたのだが、もうひとつ可能性があった。関連会社だ。
酢こんぶの会社は関連会社が同じ敷地内や少し離れた場所に点在していて、都こんぶさんはこの関連会社にいる可能性もある。
ということで、同じく電話番号簿で調べてみたが同じ苗字の人はいない。都こんぶさん探しはあっという間に行き詰まってしまった。
やはり都こんぶさんはでたらめの勤務先を書いたのだろうか?
都こんぶさん探しが行き詰まり、それから何週間か過ぎてこの出来事をあまり思い出さなくなったある土曜日、酢こんぶはふと、都こんぶさんの家へ行ってみようかと思いついた。自分と同じ名前の人がどんなところに住んでいたのかということに興味をそそられたのだ。
天気もいいし特にすることもないので、聞いていた連絡先の場所を地図で確かめ自転車ででかけることにした。
そのころ会社の近くに住んでいた酢こんぶの家から、自転車で30分くらいのところに都こんぶさんのうちはあった。畑の中の庭付き二階建ての一軒家。まわりはほとんどが畑で新築に近い家もぽつぽつと建っているが、都こんぶさんのうちは昔からの農家らしく、わりと大きな門構えと広い縁側が懐かしい感じのする家だった。
(おふくろの実家がこんな感じだったな)
そんなことを考えながら正面のコンビニで買ったおにぎりを食べていると、その家の門の中から60代くらいの女性が現れた。
たぶんこの人が都こんぶさんのお母さんで、この前電話をかけてきた人なのだろう。いかにも農家のおばちゃんという身なりで、これから畑仕事にでも出かけるのだろうか。
そのひとは少し立ち止まってこちらを見ている。酢こんぶだってばれたのか?いや、それはない。電話で話はしたが会っているわけではないから俺が酢こんぶだとわかるはずはない。
そんなことを考えながら横目で様子をうかがう酢こんぶ。そして次の瞬間、その人の口から思いもかけない言葉が飛び出した。
「酢こんぶ、酢こんぶじゃないか!帰ってきてくれたんだね!」
え?何?、、、この人は俺のことを都こんぶさんだと思ってるのか?いや、だってそんなはずは。
「あんたがいなくなってからいろいろなことがあったんだよ。
あんたがいればあの人だって今ごろは、、、、。
まあそんなことはいいよ。こうして帰ってきてくれたんだからね。
ほら、はやく家にお入り。○○もいるよ。」
都こんぶさんのお母さんは俺の背中を押しながら、意味のわからない言葉を発する。
意味がわからない?そうか?
(○○っていうのは兄貴の名前だっけ、それとも話し合いたいといってた俺の子供の名前だったっけな。)
なんだか頭がぼんやりして考えがまとまらない。
「○○、○○、酢こんぶが帰ってきたよ!はやくおいで。」
俺は門をくぐりながら、さらにはっきりしなくなってくる頭で考えていた。
ああ、そうか。
都こんぶさんが見つからないのは当然だな。
俺が都こんぶさんだったんだからな。
うん、そうだ、当然だ。
家出するまで長年暮らした懐かしい家が、俺の目の前にあった。
(完)
------------------------------------------------------
えー、いかがだったでしょうか。
実は「その3」までは15年ほど前(まだ結婚してないとき)、酢こんぶの身に起こった本当の出来事です。そしてこの「その4」は、その話を聞いたかるた堂の店主が言ったことをヒントにして創作した部分です。
実際には、総務に任せた後にどうなったのかは確認していないのでわかりません。
都こんぶさんのうちに行ってみようかと思ったこともありますが、やめときました。
だって、ほんとに上のようなことがあったら
こわいじゃないですか。(-_-;
・見知らぬ母からの電話(その1)
・見知らぬ母からの電話(その2)
・見知らぬ母からの電話(その3)
都こんぶさんのことが妙に気になった酢こんぶは、本当に社内に都こんぶさんがいないのかどうかを調べてみることにした。
手始めに電話番号簿で調べてみる。
結果、酢こんぶと同じ苗字の人は一人だけで、これは酢こんぶも知っている工場勤務の女性だから都こんぶさんではない。
これで既に手詰まり状態に思えたのだが、もうひとつ可能性があった。関連会社だ。
酢こんぶの会社は関連会社が同じ敷地内や少し離れた場所に点在していて、都こんぶさんはこの関連会社にいる可能性もある。
ということで、同じく電話番号簿で調べてみたが同じ苗字の人はいない。都こんぶさん探しはあっという間に行き詰まってしまった。
やはり都こんぶさんはでたらめの勤務先を書いたのだろうか?
都こんぶさん探しが行き詰まり、それから何週間か過ぎてこの出来事をあまり思い出さなくなったある土曜日、酢こんぶはふと、都こんぶさんの家へ行ってみようかと思いついた。自分と同じ名前の人がどんなところに住んでいたのかということに興味をそそられたのだ。
天気もいいし特にすることもないので、聞いていた連絡先の場所を地図で確かめ自転車ででかけることにした。
そのころ会社の近くに住んでいた酢こんぶの家から、自転車で30分くらいのところに都こんぶさんのうちはあった。畑の中の庭付き二階建ての一軒家。まわりはほとんどが畑で新築に近い家もぽつぽつと建っているが、都こんぶさんのうちは昔からの農家らしく、わりと大きな門構えと広い縁側が懐かしい感じのする家だった。
(おふくろの実家がこんな感じだったな)
そんなことを考えながら正面のコンビニで買ったおにぎりを食べていると、その家の門の中から60代くらいの女性が現れた。
たぶんこの人が都こんぶさんのお母さんで、この前電話をかけてきた人なのだろう。いかにも農家のおばちゃんという身なりで、これから畑仕事にでも出かけるのだろうか。
そのひとは少し立ち止まってこちらを見ている。酢こんぶだってばれたのか?いや、それはない。電話で話はしたが会っているわけではないから俺が酢こんぶだとわかるはずはない。
そんなことを考えながら横目で様子をうかがう酢こんぶ。そして次の瞬間、その人の口から思いもかけない言葉が飛び出した。
「酢こんぶ、酢こんぶじゃないか!帰ってきてくれたんだね!」
え?何?、、、この人は俺のことを都こんぶさんだと思ってるのか?いや、だってそんなはずは。
「あんたがいなくなってからいろいろなことがあったんだよ。
あんたがいればあの人だって今ごろは、、、、。
まあそんなことはいいよ。こうして帰ってきてくれたんだからね。
ほら、はやく家にお入り。○○もいるよ。」
都こんぶさんのお母さんは俺の背中を押しながら、意味のわからない言葉を発する。
意味がわからない?そうか?
(○○っていうのは兄貴の名前だっけ、それとも話し合いたいといってた俺の子供の名前だったっけな。)
なんだか頭がぼんやりして考えがまとまらない。
「○○、○○、酢こんぶが帰ってきたよ!はやくおいで。」
俺は門をくぐりながら、さらにはっきりしなくなってくる頭で考えていた。
ああ、そうか。
都こんぶさんが見つからないのは当然だな。
俺が都こんぶさんだったんだからな。
うん、そうだ、当然だ。
家出するまで長年暮らした懐かしい家が、俺の目の前にあった。
(完)
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えー、いかがだったでしょうか。
実は「その3」までは15年ほど前(まだ結婚してないとき)、酢こんぶの身に起こった本当の出来事です。そしてこの「その4」は、その話を聞いたかるた堂の店主が言ったことをヒントにして創作した部分です。
実際には、総務に任せた後にどうなったのかは確認していないのでわかりません。
都こんぶさんのうちに行ってみようかと思ったこともありますが、やめときました。
だって、ほんとに上のようなことがあったら
こわいじゃないですか。(-_-;
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